INTERVIEW

インタビューVol.7

<HYOGO>Tさま家族の3年目の暮らし

FAMILY

ご夫婦・ワンちゃん

CATEGORY

一戸建て
リノベーション

DIRECTOR

Toshiaki Nishiura

DESIGNER

Masami Yamaguchi

FAMILY ご夫婦・ワンちゃん
CATEGORY 一戸建て
PLANNER Toshiaki Nishiura
DESIGNER Masami Yamaguchi

お祖母様から譲り受けた平屋建ての2×4住宅をフルリノベーション。
完成したのは、モルタルの壁にステンレスのキッチン、
シルエットにこだわったスチール階段がシンボリックな無機質空間。
お引き渡しから2年が経ち、3年目を迎えた今、
こだわり抜いた空間でどのような生活をしているのか、そして、
リノベーションに熱狂した当時を振り返ってどう感じているのかを聞いてきました。

bus

ー こちらの住まいはもともとどういったお家だったのでしょうか?

妻)もともとは、私の祖母が住んでいた家なんです。

夫)同じ敷地の隣が妻の実家で、間に駐車場がある感じになっています。

妻)祖母はずっと入院していて、住んでいない時期が長くて。やっぱり誰も住んでいないと家って傷んでくるじゃないですか。そういうこともあって、いずれ私たちが譲り受ける可能性もあるよねという話も出ていて。

夫)2年前に譲り受けることに。築年数はどれくらいやろ?

妻)阪神大震災の直後に建ったはずなので、30年くらいかな。平屋で、2×4工法で建てられています。

ー 建て替えという選択肢もあったと思うのですが、最初からリノベーションすると決めていたんですか?

妻)両方検討しました。完全に取り壊して2階建てを新築するか、平屋のままリフォームするか、すごく悩みました。

夫)それほど広い家ではないので、1階だけだと、荷物とか、仕事の機材とか、2人の洋服とかの量を考えると明らかに狭いだろうなというのはあって。

妻)でも、建て替えとなると、新築する費用に加えて取り壊す費用なんかもかかりますし、コスト的に合わないだろうなとは思っていました。

ー 最終的にリノベーションを選ばれたのは?

夫)住宅メーカーさんに相談したら「狭くなりますよ」と言われて。今と同じスパンでは建て替えられないだろうということで。

妻)いろいろ意見を聞いて、最終的には広さとコストのバランスを考えてリノベーションに落ち着きました。

bus

ー リノベーション会社以外にもいろいろ相談されたということですか?

妻)はい、たぶん全部で10社くらい行ったと思います。住宅メーカーさん、建築士さん、リノベーション会社さんと、いろいろ回りましたね。

夫)建築士さんが集まるイベントみたいなのがあって、そこで3名くらいの方に話を聞いていただいたり。

妻)住宅メーカーさんも大手のところはひと通り行きました。

夫)やっぱりメーカーさんの家は性能がすごくて。気密性とかすごかったよね。冬に行ったんですけど、暖房をつけてないのにめちゃくちゃ暖かくて。その分、値段も結構、ね。

妻)「モルタルを使いたいならうちは違うと思います」ってはっきり言ってくださったり、意外とみなさんきちんとお話ししてくださるんだなという印象もありましたね。

夫)確かに。いろいろ話を聞いてみると、アリかナシかの判断ができて、あまり悩まずに絞れていった感じです。消去法じゃないですけど、リノベーションで間違いないと思えるようになりました。

ー 建築士に依頼するという選択肢もあったんですね?

夫)ちょっと会って話してみたいというのもあって、ちょうどイベントの情報を見つけたので行ってみた感じです。建築士さんによって得意な分野や個性が全然違っていて、めちゃくちゃかっこいい家を作る人とか、ぶっ飛んでるデザインが得意な人とか、三者三様。それはそれで面白かったですし、行ってよかったです。

妻)でも私たちの場合、最初から「ステンレスとモルタル」というイメージが決まっていたので、建築士さんにお願いする意味があまりないなというのもあって。

夫)そうそう。自由にやっていただくならお願いする意味があると思うんですけど、「こうしたい」と決まっている状態で依頼するのは建築士さんに失礼かなと思って。

ー リノベーション会社は何社くらいに相談しましたか?

妻)Aさん、Bさん、スクールバスさん、あとひとつどこだっけ?もうひとつあったはずなんですけど、忘れちゃいました。

夫)最終的にはスクールバスさんとAさんの2社で検討しました。

ー スクールバスを選んだ決め手は?

妻)それぞれの会社に、やりたいことや好きなこと、逆に好きじゃないことなんかをまとめた企画書を作ってお渡ししたんです。その中でも特に強く希望したのがモルタル。壁を全部モルタルで仕上げたいというのが私たちの譲れないこだわりでした。 スクールバスさん以外の会社は、「できるけどクラックが出ますよ」とか「冬は寒いし、夏は暑いですよ」とか、プロとして「実用的ではない」というアドバイスをしてくださるのですが、そんなことも理解された上で、「モルタルで行きましょう!」と積極的に言ってくださったのが西浦さんでした。

妻)いろいろ話を聞くと、やっぱりモルタルは難しいのかなと思ってきたりもしたけど、ね。

夫)西浦さんだけは最後までモルタルを支持してくれて。「モルタル辞めたら他に何するんですか!?」くらいの勢いで(笑)。勢いというか、実際に言ってましたよね。

妻)もうそれで決まりました(笑)。

夫)私の場合は、「クラックが入りますよ」と言われても「入るから何?」というスタンスだったので。そこの価値観をキャッチしてくれて、乗っかってくださるところがいいなと思って。 クラックが入る入らないの話じゃない感じを分かってくれたのが西浦さん。「モルタルじゃなかったら何するんですか!?」は良かったよね(笑)。

妻)もちろん、モルタル以外のところも私たち好みで。階段で上がるロフトのプランなんかはスクールバスさんだけやったよね。

夫)理解してもらえたという感覚と純粋にプランが良かったのと、あとは心意気ですね。私たちが「この空間が理想で」と言っていたアパレルのお店をわざわざ見学に行ってくださったりね。
家なんだけどショップやギャラリーのような感じにしたくて。それをちゃんと汲み取ってくれたのがスクールバスさんでした。

bus

ー 確かにこのモルタルはすごいですね。圧巻。それにも増してあのロフトに上がる階段が特徴的なのですが、これもこだわられたポイントですか?

夫)そうなんです。最初はもっとぶっ飛んだものをイメージしていて(笑)。それをやっちゃうとぜったいに怪我するってなって(笑)。

妻)そうそう。ぜったい落ちるから!って。手すりはどうやって付けるの!?壁貫かなあかんで!?って。

夫)なんか壁から出して斜めに上がっていくみたいなのがいいとか、できないなら手すりはいらないとか、もう板だけが付いてるくらいの感じにしたいとか、言いたいこと言って。私はもう狂乱してました。

妻)手すりだけでそんな何回も話する?って感じでしたよね。

夫)ここは本当に印象的な階段にしたくて(笑)。

妻)スクールバスさんもこれだけは唯一「無理かも」って。「あまりにも危険です」ってね。

夫)今のこの階段も角度とかめっちゃ調整してもらいましたよね。横から見た時にこのラインとこのラインが一緒になってほしいとか、シルエットにはこだわりました。

妻)実際に階段を持ってきてもらって、一度当ててからまた持って帰ってみたいなこともありましたよね。すごい重いと思うんですけど、何人かで運んでくださって。

夫)ほんとご迷惑をおかけしました(笑)。

ー 床の感じもいいですね。

妻)これは完全にワンちゃん仕様。滑らない素材を選びました。

ー 天井なんかも特徴的です。

夫)これはスクールバスさんが提案してくださったもので、見てすぐに気に入りました。木毛セメント板っていう構造材なんですけど、コスパもいいですし、むき出しの感じも好みで、すぐにこれにしますって。

ー お家の狭さを気にされてましたが、どうですか?

妻)ドアを付けず、できるだけオープンな空間にしていただくことで解消しました。

夫)お風呂とトイレ以外は基本的にオープン。寝室もクローゼットも丸見えです。

ー 収納も足りてる感じですか?

妻)確かに収納スペースは不安だったのですが、隣が実家なので、ね(笑)。

夫)普段使わないものは隣に預かってもらってます(笑)。

妻)でもやっぱり物は増やしたらあかんなという気持ちはあって、できる限り必要なものだけというように意識はしています。

ー 工事中、現場に行かれたりもしましたか?

夫)行きましたね。迷惑なくらい(笑)。ドアにモールテックスを塗っているところを見たいとか言って、ずっと横で見てたこともありましたし、天井なんかも白く塗るかどうかパネルが貼られた後に決めたいとか言い出したりね。塗ってもらう時もあんまりしっかり塗らないようにしてくださいとか、ちょっとムラがあるくらいがいいとか、いろいろお願いしちゃって。西浦さんもたぶん、「こいつら塗るって言い出すやろなぁ」と想定しながら提案してくださっているので、言いやすいというか、やっぱり安心感がありましたね。

妻)そうなんです。西浦さんもデザイナーの山口さんも私たちの好みをちゃんと理解してくださっているので、どちらに転んでもちゃんとフィットするんです。

夫)そのあたりはやっぱりプロやなと。やりたいことは貫いたけど、提案していただいたことも取り入れた方がいいものができそうだなというのは早い段階から感じていました。

ー デザイナーさんとも密にやりとりされていたんですね?

妻)最初はずっと西浦さんとお話ししていて、その後、デザイナーとして山口さんが出てこられて。それまでに10社くらい回っていろんな方と会っていたので、山口さんが登場した時は正直、「お若いな」という印象があったんです。本当に失礼なんですけど、「若い女の子だけど大丈夫?」みたいな。 でも、そんな印象は一瞬。お話しするとちゃんと自分を持ってらっしゃる方で。言い方はあれですけど、頑固(笑)。現場の職人さんと向き合う姿勢なんかもね。すごいよね。

夫)ちょっとびっくりしました。戦う姿勢というか。本当に頼もしくて。この方は自分が大事にしているものをちゃんと大事にする人なんやっていうのがすごく伝わってきて。僕も写真を撮る仕事をしているのでわかるんです。どうしても譲れないっていう頑固さがクリエイティブには絶対に必要で、山口さんもそれをちゃんとお持ちなんだなと。

妻)西浦さんがそれぞれの思いを汲んで交通整理してくださっている感じでしたよね。

bus

ー 2年間暮らされてみて、いかがでしょうか?

夫)「家、最高!」っていう感じです。やりたいことをやり切ったので、不満なところは何もないですね。

妻)本当にやり切ったというのが一番ですね。中途半端なことはしたくなかったので、これまで住んできたマンションとかは逆に、デザインやインテリアよりも利便性を優先して選んでたんです。今回やっと振り切れたというか、そうですね、やっぱりやり切った感じが強いですね。

ー 普段はどんな感じで過ごされていますか?お気に入りの場所やシーンがあれば教えてください。

夫)帰ってきたら床に座るか、このダイニングのベンチに座るか、ですかねぇ。ソファでゆったりと寛ぐみたいなことはまったく求めてなかったので、家で作業している時なんかは朝起きてから寝るまでほとんどベンチに座ってる時なんかもありますね。あ、でも、ワンちゃんと結構遊んだりするんで、そこのひだまりのところに寝転がったり、たまにケージで一緒に寝たり。ちゃんと考えたことはなかったけど確かにいろんなところで寝てるかも。クローゼットの中で上を見上げて寝てみたり、ロフトに上がって寝てみたり。

妻)料理もするよね。

夫)料理もしますね。そんな凝ったものは作らないですけど、作りすぎたら隣に持っていったり。好きな場所はどこだろう。

妻)天窓から光が差し込む感じはいいですね。暗い部屋に住んでいたことが多かったので、やっぱり明るい家っていいなって改めて思いました。

夫)確かに。光はかっこいい角度で入る時があるよね。

妻)時間によってひだまりの場所が変わるので、それに合わせてワンコが徐々に移動しているのもかわいくて。そんなのを眺めている時間も幸せですね。

ー お二人の距離感はどうですか?今みたいに横並びな感じで?

夫)そうですね。ご飯を食べる時は横並びかな。それ以外は結構ソロ活動で。

妻)それぞれ自分の場所でという感じです。

夫)ただ、すべてがオープンなので、「あ、そっちのほうでやってるな」とか「こっちで作業してるな」みたいなのは全部わかります。

妻)で、ちょうど2人が見える位置にワンコがいる感じ。

夫)そうそう。僕らのこと見張ってんねんな。

ー 季節ごとの住み心地や温熱環境などはいかがでしょうか?

夫)冬はもちろん寒いですけど、兵庫なんでね。北海道とか青森じゃないので、暖房をつけて、それでも寒かったら床暖をつけて。全然過ごしやすい環境です。

妻)その辺のことは全部スクールバスさんにお任せでしたね。

夫)窓は変えてないので隙間風があったりもしますが、まったく気にしてないです。

ー 住んでみて気付いた想定外のことはありましたか?

夫)ないよね。全然ないです。

妻)例えば、洗面化粧台の水跳ねの量が想定以上だったとか。

夫)そういうのはあるかな。何も考えずに水を出したら床に跳ねるよね。その辺は頭になかったけど、想定外というほどでも…。想定外?想定ってどういうことなんでしょうね。

妻)ここの角で怪我するのは?この角によくぶつけるんですよ。

夫)あと、床暖の効きが思ったよりよくないとか?他の床暖房を知らないのでなんとも言えないけど、電気式だからかなぁ?

妻)モルタルのクラック問題に関しては全然割れてていい派なので気にならないですし、スチールの板が錆びてくるのも経年変化だと思っていて大歓迎ですし。

夫)想定外ですよね。全然ないなぁ。

ー イメージしていた暮らしに近かったということでしょうか。

夫)そう言われて気付いたんですが、あんまり暮らしをイメージしていなかったのかもしれないです。ここはこうしたいとかこのデザインは譲れないとかはあったのですが、完成した空間でどんなふうに暮らしたいとかは全然想像してなかったのかも。とにかく理想の形に近づけたい、やり切りたいという思いが強くて、たぶんこちらから「こんな暮らしがしたいんです!」みたいなことをお伝えしたことってなかったんじゃないですか?

妻)それはそうかも。こう暮らしたいとか聞いたことない。

夫)想定してないから想定外もない。暮らしがイメージできていたら手すりがない階段は思いつかないですよね(笑)。プロダクトとしての完成度に満足しているからちょっとした不便は全然気にならなくて、むしろいいものができたのだからこっちが工夫してそれに合わせるみたいな感じなのかもしれないです。

bus

ー ご主人は今、おいくつですか?

夫)45歳です。

ー このタイミングでリノベーションしたことに何か意味を感じられたりしますか?

夫)それはそうで、このタイミングで本当によかったと思っています。もっと若い時にやってたら全然違うものになっていたと思いますし、絶対スベッてました(笑)。

妻)確かに。絶対変なことになってたよね。

夫)こうやって彼女のおばあさんが残してくれたところに住むっていうルーツ的なところとか、自然な流れも素敵ですし、そのタイミングがなんとなく趣味やスタンス、生き方が確立してきたこの年齢だったというのもいいですし。

妻)昔は今以上にこだわりが強かった?

夫)人から何を言われても曲げなかったかも。今は年齢を重ねて全体のバランスとかも考えるようになったし、「あ、そういう考えもいいね」って受け入れられるようになったかな。

妻)階段くらいですね。譲らなかったのは(笑)

夫)いや、最終的に譲ったけどね(笑)。本当にいいタイミングでいい経験ができて良かったです。

ー 最後に、インタビューを通じて当時のことを振り返ってみられてどんなお気持ちでしょうか?

夫)「暮らしのイメージ」という問いには正直ハッとしました。言われてみれば、どういうふうに暮らしたいのか考えてなかったなって。後悔してるとかではなくて、それでよかったと思っていて、西浦さんや山口さん、あと職人さんたちも含めて、私たちと同じかそれ以上の熱量で向き合ってくれる人たちが、「今作っているものがいかに良くなるか」だけを考え抜いて完成したものなので。そこをちゃんとやっておけば絶対に大丈夫というのはわかっていたので。

妻)この方たちと一緒なら大丈夫というのは本当にそうでした。

夫)あの時全身全霊を注ぎ込んだことを思い出したので、これからの暮らしも大丈夫だという自信をまた持てましたね。

INTERVIEWER:松本直丈
ノウル株式会社・コピーライター。建築・インテリア関連の取材・執筆多数。現在、自宅マンションのリノベーションを検討中。

   
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